【レア酵母とは】
「酵母」とは、食材を発酵させる働きをもつ微生物のことで、お米から日本酒を作るのには欠かせない存在です。
同じお米や水を使っても、酵母が違えば、日本酒の味や香りが変わります。
さて、私たち醸造メーカーが日本酒に使用する酵母のほとんどは、日本醸造協会が管理する「きょうかい酵母」と呼ばれる酵母たちです。
醸造メーカーは通常、1~19号(各号が改良されたものも含めると約30種類)の酵母から選定して仕入れ、醸造しますが、昨今、業界で一般的に使われている酵母は7~19号。
仙醸が通常使っているのも7号以降の酵母です。
1〜6号の酵母で醸したお酒は近頃ではなかなか出会えなくなりました。
というのも、1号の酵母が発見されたのは、110年以上前の1906年(明治39年)。
6号でさえも、出自は1930年(昭和5年)。
その後、時代の移り変わりと共に食生活や好まれる味わいが変化・多様化し、求められる日本酒・使われる酵母も変わっていく中で、1~6号の酵母は、いつの間にか「珍しい酵母」になったのです。
そんな珍しい「レア酵母」6種類で醸したお酒の飲み比べセットです。
■お酒の特徴■
- 内容量
- 720ml×6本
- 原材料
- 米、米麹
- 原料米
- 長野県伊那市産ひとごこち
- 精米歩合
- 60%(純米吟醸)
- アルコール度数
- 16度
- 保存方法
- 常温(冷暗所)
【レア酵母の特徴】
■1号■ しばらく姿を消していた幻の酵母
【出身地】兵庫県神戸市(灘) 櫻正宗さん
【分離年】1906年(明治39年)…夏目漱石『坊ちゃん』が発表された年
【頒布期間】1935年(昭和10年)まで
【酵母の特徴】
当時にしては低温に属する摂氏20度で最適発酵し、濃醇な酒を醸した強健な酵母だった。
戦災で焼失したと考えられたが、2001年に奇跡的に再発見された。
【味と香り】
香りはフレッシュ、果実感もあり。甘味の次に酸味、後味には独特の渋味が感じられる。
■2号■
繊細で手のかかるマイペース酵母
【出身地】京都府京都市(伏見) 月桂冠さん
【分離年】1912年(明治45年)…元号を明治から大正に改元した年
【頒布期間】1939年(昭和14年)まで
【酵母の特徴】
食い切りがよく濃醇な酒を醸した。真円形の細胞で、顕微鏡で見るだけで他の酵母と区別できる。
発酵力が非常に弱く、スピードもゆっくり。“造り手泣かせ”な手のかかる酵母らしい。
【味と香り】 リンゴや乳酸飲料を思わせる爽やかな香り。1号酵母のお酒より軽快な味わいだが、余韻が残る。
■3号■
「辛口にして甘露」ツンデレ酵母
【出身地】広島県三原市 醉心さん
【分離年】1914年(大正3年)…第一次世界大戦が勃発した年
【頒布期間】1931年(昭和6年)頃まで
【酵母の特徴】
酒質の優秀さで評価が高かったが、保存中に変性したとして使用されなくなっていた。
3号が醸し出す香りは現在一般的に使われる酵母のそれとは異なるらしい。
【味と香り】
味はややドライ、マスカット様の香りは白ワインを連想させる。冷やして飲むのがおすすめ。
■4号■
出自明かさぬミステリアス酵母
【出身地】広島県下の酒造場(詳細不明)
【分離年】1924年(大正13年)…宮沢賢治『春と修羅』が出版された年
【頒布期間】1931年(昭和6年)頃まで
【酵母の特徴】
香気がよく、醪の経過の良好さで評価が高かった。3号同様、変性により使用されなくなっていた。
【味と香り】
爽やかで嫌味のないヨーグルト様の香り。甘さがダイレクトに伝わる味わい。
■5号■
シュッとして目を引く個性派酵母
【出身地】広島県東広島市 賀茂鶴さん
【分離年】1923年(大正12年)頃…関東大震災が起きた年
【頒布期間】1936年(昭和11年)まで
【酵母の特徴】
長楕円形の細胞が多く、他の酵母との区別が比較的容易。今でいう「吟醸香」で評価が高かった。
【味と香り】 ほのかなマスカット様の香り、滑らかな味わい。後味の渋味も少ない。
■6号■
北国から来たパワフル母さん酵母
【出身地】秋田県秋田市 新政さん
【分離年】1930年(昭和5年)…昭和農業恐慌が起きた年
【頒布期間】現在も頒布中
【酵母の特徴】
10~12℃の低温下でも強い発酵力を維持する酵母。80年以上も安定して優秀な性質を維持している。
この酵母の頒布により、北陸、東北、信州などが酒どころとして名乗りを上げられるようになった。
遺伝子解析によると、6号は1~5号とは遺伝的な関係性が薄い一方、突然変異によって7号以降すべての酵母を生み出した「親」であることがわかった。
【味と香り】
リンゴやバナナなどの香り。旨味があり、後味は丸みのある酸がキレの良さを演出する。